神話と伝説

車山の天狗

車山の天狗と鬼ヶ泉水

転載元 http://rarememory.justhpbs.jp/tengu/ten.htm


 男女倉(おめぐら)集落に「山彦」という若い狩人が住んでいました。
「山彦」は何時も鹿や猪を追って、男女倉道を通って八島湿原から車山のなだらかな山の中を駆け巡っていました。ある日、なかなか仕留められないで、ついにずっと東の殿城山まで追って行きました。ここは、鹿が生息しやすい場所でした。小さな峠の車山乗越(くるまやまのっこし)を北に向かえば、萱や薄を採取するための山焼きが及ばない殿城山(とのしろやま)が小さな円錐形の山として、独立して存在しています。ここは、鹿の生息地であり、安息の地であることが、知られていました。ここまで逃れた鹿を狩ることは、狩人仲間では、古くから禁止されていました。祭場が築かれていたからです。ここを聖なる場所とし、生業とはいえ、狩猟の犠牲となった動物達や山鳥の霊を祀っていたからです。
「山彦」はここで、数頭の鹿の家族に出会いました。その中に一段と見事な雄鹿がいました。「山彦」は、その大鹿に鉄砲の筒先を向けました。すると大鹿が青白い炎に包まれると、金剛力士のような上半身裸のたくましい若者の姿に変わります。若者は目にもとまらぬ速さで、鉄の塊を投げつけます。すると鉄砲の筒先がつぶされ、「山彦」は遠く高く飛ばされ、山の尾根に叩きつけられました。
 ようやく意識が回復し、八島湿原に辿り着きます。のどがカラカラです。池の水を飲もうとした瞬間、「ヒェー」と悲鳴を上げ飛び退きます。なんと水の中に鬼が潜んでいるではありませんか。もう一度、恐る恐るのぞいて見ると、それが自分の顔である事に気がつきます。
 翌日、「山彦」の弟が、帰ってこなかった兄を探しに、男女倉山を越えて車山乗越に向います。すると途中の尾根の崖下に、鬼の容貌となった兄の骸が横たわっていました。いつしか、狩人仲間で、車山の天狗の怒りをかったためと噂が流れました。やがて「山彦」がのぞいた八島湿原の池を「鬼ヶ泉水」と呼び、落ちた尾根を「山彦尾根」と呼ぶようになりました。「山彦」の死んだ日には、毎年、夫婦岩で、車山の天狗の怒りをおさめる祭事が行われるようになりました。








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