NATIONAL GEOGRAPHIC 2014.05.19
これまでに発掘された1万2000年以上前の骨の中で最も保存状態の良いものが見つかったと、研究チームが5月16日に発表した。最も初期にアメリカ大陸に移住した人々と、後のアメリカ先住民とで外見的特徴が異なるのはなぜなのか、その謎が解かれようとしている。 人類学者たちは長年、更新世にアメリカ大陸に移住した古代の祖先たちと現代アメリカ先住民が似ていない理由をつかめずにいた。今回発見された頭蓋骨には、アフリカやオーストラリア、環太平洋地域南部の先住民と共通の特徴が見られるという。
アメリカ先住民との違いは、移住後の進化的変化によるものなのか? それとも、パレオ・インディアン(最も初期にアメリカ大陸に移住した人々)は、アメリカ先住民と似た特徴を持つ人々が後に移り住んだことで住む場所を失ったのだろうか?
考古学者ジェームズ・チャターズ(James Chatters)氏率いる研究チームは、アメリカ大陸で発見された1万2000年~1万3000年前の骨としては最も保存状態の良いものを発見したと「Science」誌で報告。古代パレオ・インディアンの頭蓋顔面の特徴と、現代アメリカ先住民が持つミトコンドリアDNAの両方が認められたという。
◆DNAをたどる
“ナイア(Naia)”と名付けられた骨は、複雑なカルスト洞窟群を800メートル近く進んだ場所で30メートル以上落下して死んだ、十代の少女のものだった。メキシコのユカタン半島にある洞窟でナイアを発見したダイバーたちは、水中に沈んだ彼女の墓を、スペイン語で“ブラックホール”を意味するオヨ・ネグロ(Hoyo Negro)と命名した。
ナイアの顔は「現代のアメリカ先住民とほぼ対照的だ」と、チャターズ氏は説明する。このような特徴が、アメリカ先住民と共通の系統を示唆する遺伝子マーカーと同時に認められた今回の発見は、極めて重大な意味を持つ。
オヨ・ネグロでの発見直前、モンタナ州にあるクロービス文化のアンジック遺跡で発掘された、1万2600年前の幼児のゲノム解読が行われ、こちらもアメリカ先住民と共通の祖先を持つことが明らかとなっている。
アンジック遺跡の骨から得られた遺伝子情報は、ミトコンドリアDNAと核DNAから得られたと言う点でオヨ・ネグロのものに比べ優れている。ところがアンジックの骨は、保存状態の面ではるかに劣っていた。
「これで、アジアを起源とする共通の祖先を持ち、互いの不足を補える骨を2つ得ることができた」と話すのは、テキサス州カレッジステーションにあるテキサスA&M大学付属ファースト・アメリカンズ研究センター(Center for the Study of the First Americans)所長のマイケル・ウォーターズ(Michael Waters)氏。「アンジックのゲノムはオヨ・ネグロ同様、パレオ・インディアンがアメリカ先住民と遺伝的関係があることを示している。つまり、アメリカ先住民がパレオ・インディアンに取って代わったとは考えにくい。違いは進化的変化によるものだろう。何が変化を促したのかはわからない」。
◆狩人から主婦へ?
古代アメリカ先住民の形態は、生活環境の変化に伴って変化したのではないかと、チャターズ氏は推測する。常に移動する狩猟採集民が定住するようになり、進化の過程でより家庭的な特徴や気質が選択され、現代アメリカ先住民の顔に見られる柔らかい丸みを帯びた特徴に至ったのではないか。
今回の研究では、進化的変化の要因に関する推測は行われていない。それでもなお、オヨ・ネグロでの発見からあまりに多くの結論を出すことに警鐘を鳴らす科学者もいる。
◆ナイアを知る
2007年、洞窟群をマッピングしながら探検していたダイバーたちは、巨大な穴の底でナイアの遺骨を発見した。
少女は「水を探していたのだろう」と、プロジェクトを共同で指揮するドミニク・リッソーロ(Dominique Rissolo)氏は話す。
ナイアの骨には、虫歯や骨粗鬆症の兆候が見られた。身体的に未熟な若年時の妊娠が原因かもしれないという。
「かなり石灰化しているため、骨は頑丈で硬い。頭蓋骨の計測には都合が良い」とリッソーロ氏。「だが年代を決定するとなると、話は別だ」。
放射性炭素年代測定に必要な骨コラーゲンが得られなかったのだ。そこで研究チームは、骨にできた“小花(floret)”として知られるカルサイト結晶の年代測定、近くにあったコウモリの糞化石の炭素年代測定に加え、ナイアの歯のエナメル質の炭素年代測定を行った。
これに、近くで見つかった更新世の動物の骨から得た情報、洞窟が浸水したと推測される年代を加味し、ナイアの骨が少なくとも1万2000年前、もしかすると1万3000年近く前のものかもしれないとの結論に至ったという。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9248/
nature 2014.02.13
古代ゲノム学:古代ゲノムからアメリカ先住民の祖先が明らかに
クローヴィス文化は、約1万3000年前の北米に広く分布した古代の文化で、クローヴィス尖頭器として知られる槍の刃など、独特な石器が特徴である。ただ、これらの石器をどのような人々が作ったのかについては、わずかな情報しかなく、推測の域を出なかった。今回、古代の北米にいたアメリカ先住民個体のゲノム塩基配列が初めて解読され、さらなる研究を進めるための情報が得られた。
このゲノムは米国モンタナ州にあるクローヴィス文化のアンジック遺跡の墓地で発掘された幼い男児(Anzick-1)のものである。この部分骨格は約1万2600年前に埋葬されたもので、黄土を塗った多数の石器と一緒に出土した。このゲノムは、現代のアメリカ先住民の祖先に当たる1つの集団に属している。また、このゲノムと南北アメリカのさまざまな先住民集団との類縁関係は全て、他大陸のどの集団とよりも近かった。
これらの知見は、クローヴィス人がヨーロッパから移動してきたという仮説を否定するもので、クローヴィス人よりも数千年前にアメリカ大陸にヒトが居住していたという説と一致し、現代のアメリカ先住民が、アメリカ大陸に最初にうまく定住した人々の子孫であることを示している。
→ アンジック遺跡から出土した尖頭器や両面加工石器、骨製の棒。これらすべてに赤黄土の痕跡が見られる。
https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/51869