蒼 穹
09. ほんの数分の間にどんな会話が交わされたのか
地球ブラックホール化を阻止した直後、彼らのモチベーションはなお高かった。使命を果たして逝った仲間の分も生きなければならない、その思いも大きかった。
しかしエネルギー確保が困難になり、いずれゴッド・フェニックスの飛行も難しくなる可能性を前に、南部博士はまず、唯一の女性隊員であるジュンをゴッド・フェニックスから降ろした。
「なぜ私なのですか!?」
なぜ降ろされなければならないのか!? 彼女はなりふり構わず博士に食ってかかった。隊員全員が揃った場での通告だったのは全員に認識してもらうためだったのだが、ジュンの激烈な反応に度肝を抜かれた男たちを残し、博士はジュンだけを別室に呼んでその訳を伝えた。
「きみのためなのだ」
「納得できません!!」
「バードスタイル変身の原理は説明するまでもなかろう。そのエネルギーはフェルミウム257を個人の声紋によって共振させることで発生する。3,600フルメガヘルツという超高周波だ。この高エネルギーを生身の身体に浴び続けるのは、若く頑強な男性でもせいぜい数年が限度。はっきり言おう。これ以上変身を続けると、ジュン、きみは子どもを授かることができなくなってしまう」
面と向かっての思いもよらない言葉にジュンは絶句した。
「きみは、きみたちは、十代の青春時代を過酷な戦いの場にかけてくれた。いや、私がかけさせてしまった。それだけでももはや取り返しのつかないことなのだ。私はこれ以上……きみの将来、きみの幸福を、犠牲にするわけにはいかない」
ぼう然と南部の私室を出てきたジュンを男たちは迎える。心配げに集まってくる彼らの姿を目にして、ジュンはついにぼろっと涙をこぼした。
「おねえちゃん! 南部博士になにを言われたんだ!? ちくしょうおねえちゃんを泣かせやがって! いくら博士でもおいら許さねえぞ! 行って、文句を言ってやる!!」
かっとなって駆け出す甚平の腕をジュンはがしっとつかんだ。そしてそのまま抱きしめ、彼女は号泣した。
ほんの数分の間に、どんな会話が交わされたのか、男たちは結局知ることはなかった。だが、それを境に、ジュンと南部博士との信頼関係が、いや、絆が、より強くなったのは確かなんだよな、と甚平は思ったものだった。